そのために、どんな曲を選ぶかがとても大切でした。(ショートダンスに)わたしたちが選んだ曲は、パソドブレのパートに「Tercio de Quites (テルシオ・デ・キーテス)」、そしてフラメンコのパートにパコ・デ・ルシアの「Almoraima (アルモライマ)」とミゲル・ポベダの「Alfileres de Colores (アルフィレーレス・デ・コローレス:色とりどりのピン)」。この3曲で、闘牛と闘牛士の関係を表現するプログラムを作りました。闘牛場の中だけでなく、場外も含めて。スペイン国立バレエ団監督アントニオ・ナハーロの振り付けのおかげで100%オリジナルの、スペイン的なプログラムになりました。ナハーロとの振り付けは楽しい作業でした。夢がすっかりかなえられたんです。
フリーダンスについては、話が別です。映画『つぐない』のサウンドトラックと、シルク・ド・ソレイユの愛についての詩を使って、独自の物語を創り、"The three faces of Love"、つまり「愛の3つの顔」と名付けました。そのうち、もっと詳しくストーリーを説明します……。わたしは本当にこの音楽が気に入っていて、これまで滑ってきたのとは違うものになっています。ハッピーエンドで、去年のプログラムのようにドラマティックで悲痛な終わり方ではありません。
”テルシオ・デ・キーテス” というのは、闘牛の進行段階の一場面、その途中の技のひとつです。闘牛にはあまり詳しいわけではないので調べ直しましたが、スペインの闘牛は大まかに(1)槍突き、(2)銛打ち、(3)とどめを刺す――という三段階(三場)で進行し、それぞれを”テルシオ”(三分の一)と表現します。”テルシオ・デ・キーテス”は別名 Suerte de capote(スエルテ・デ・カポーテ:カポーテの技)とも言い、(1)でピカドール(馬に乗った槍打ち役)が登場する前に闘牛士がカポーテ(表がピンク、裏が黄色のケープ)を翻して牛をかわし(パセ)、牛の速さと力を見る技のこと。もしかしたら私達が「スペインの闘牛」と聞いた時に真っ先にイメージする技かもしれませんね。「闘牛ごっこ」をするときに(って、しませんか(^^;)、闘牛士役が布をひらひらさせて突っ込んでくる牛役を避ける、アレです。
また、カルロス・サウラ監督の『フラメンコ・フラメンコ』(2010)での存在感も、記憶に新しいところ。
土砂降りの雨の中、という演出でエバ・ジェルバブエナの踊りに合わせて歌ったNana(子守歌、という形式だけどそれどころか男女のどろどろした雰囲気……!)もいいですが、コプラ・ポル・ブレリーア(ブレリア風のコプラ)のEsos cuatro capotes が良かった! これもcapotes、とタイトルに入っているように、闘牛士のケープがモチーフなのですが、伝説的なフラメンコの巨匠達を闘牛士のケープになぞらえて称える歌です。
さてさて、脱線はこのくらいにして、 Alfileres de colores に戻らなくては。
歌詞はこんな感じ。
Cuando al vuelo tu capote
pinta verónica al trote
del toro en el redondel.
Parece la Maestranza
una academia de danza
o un cortijo de Jerez.
Y cuando la aguja del toro
pinta el traje grana y oro
como ensartando un clavel
en tus brazos soñadores
alfileres de colores
un ole quieren coser.
Como mimbre canastero
se mece tu cuerpo entero
mientras que pasa el buré.
El vuelo de tu muleta
es el verso de un poeta
que quiere al cielo embeber.
Que bronce de la escultura
del toro por la cintura
y tu muñeca un cincel
Y en tus brazos soñadores
alfileres de colores
ole con ole y olé.
フラメンコの歌詞って、口伝で作者不詳のものも多いのですが、これは一応わかっています。
Pedro Rivera ペドロ・リベーラ(パナマ人詩人・作家) が1978年に、Rafael de Paula ラファエル・デ・パウラという闘牛士の技にインスピレーションを得て書き上げたとされています。ちなみに、マエストランサ闘牛場で前述のクーロ・ロメーロとラファエル・デ・パウラの競演を見た直後のこととか。
そう、スペイン国立バレエ団(Ballet Nacional de Espana)の看板演目のひとつ、《セビリア組曲》SUITE SEVILLAです。この中に、男性舞踊手が闘牛士、女性舞踊手が牛に扮して踊る曲があります。その名も「マエストランサ」、闘牛士と牛の関係を男女になぞらえたプログラム。2013年2月の日本公演でも上演されたので、ご記憶の方がいらしたら嬉しいな。この時の公演で、アントニオ・ナハーロ振付の演目はこの《セビリア組曲》だけだったんですよね。